2025年02月01日
田中将大投手に求められる新たな役割
~セカンドキャリアに必要なこと~
12年前の巳年、2013年のプロ野球で大活躍したのが田中将大投手(36)。その田中投手が昨年末、東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、楽天)を自由契約になり、読売ジャイアンツ(以下、巨人)に移籍しました。実績のすごさは言うまでもありません。ルーキーイヤーの2007年に11勝して新人王。2011年に19勝で最多勝に輝くと、圧巻だったのは2013年。開幕から無傷の24連勝で球団初のリーグ優勝に導くと、日本シリーズでも前日に160球投げているにもかかわらず第7戦の9回に登板し、胴上げ投手となりました。2014年に大リーグのヤンキースへ移籍して6年連続2ケタ勝利をマークし、2021年から楽天に復帰していました。
ただ昨年は前年10月に受けた右肘クリーニング手術の影響もあり、1軍で1登板のみに終わりました。年齢的な問題もあり、獲得に消極的な球団が多かったなかで巨人・阿部慎之助監督は「復活できる」と判断。日米通算200勝まであと3勝としている田中投手自身も「残り3勝というところをフォーカスされていますが、自分としては3勝で終わる気持ちはありません。競争は激しいですけど、まだまだできるんだという証明をしたいと思っています」と意欲を見せています。
近年、200勝を上げる投手は少なくなっています。その理由のひとつとして「先発」、「中継ぎ」、「抑え」と役割が分業化していることがあります。その結果、先発投手は6回を3点以内に抑えるクオリティスタートを重視にするようになり、勝ち星に対する意識も変わってきています。
ビジネスでも通じるものがあり、一般企業の社員の仕事に対する意識も変化してきています。会社のために身を粉にして働く「会社人間」は少なくなり、若手社員の多くはプライベートの生活を重視しながら、自分の能力や専門性を高めたいと思う風潮が強くなっています。そのような社員の意識を理解して、うまく個人の成長と会社の成長を重ね合わせてアドバイスできる先輩社員の存在が今まで以上に重要になっています。
実は、田中投手を巨人が獲得した大きな理由のひとつに「これまでの実績や経験を投手陣に伝えてほしい」という思いがあります。阿部監督も「うちは若い投手が多いし、そういう面でも必要」と話しています。35歳の菅野智之投手が大リーグのオリオールズに移籍したため、若手中心となった投手陣の精神的な柱としてチームを支える存在が必要だったのです。
以前、同じような状況で巨人に入団したのが岩隈久志投手(43)です。2004、2008年に最多勝に輝くなど11年間で107勝を挙げ、2012年に大リーグのマリナーズへ。2015年にオリオールズ戦でノーヒットノーランを達成するなど6年間で63勝し、2019年に巨人入りして日本球界に復帰しました。しかし、マリナーズ時代に手術を受けた右肩のリハビリが長引き、2年間で一度も1軍で登板することなく現役引退を迎えたのです。
それでも周囲から批判の声はほとんど上がりませんでした。それは岩隈投手の懸命に汗を流す姿が若手の模範になっていたことや、投球術や変化球の投げ方など自身の経験や知識を惜しみなく伝えていたことを皆が知っていたからです。引退が決まり、若手たちがアドバイスに感謝していると伝え聞いた岩隈は「それは本当にうれしいね。そういう部分も期待されたところですから」と笑顔を見せたそうです。
従業員を65歳まで雇うことを企業に義務付けた「改正高年齢者雇用安定法」が施行されたのも、実は12年前の巳年2013年。そして今や、60~64歳の73%、65~69歳でも50%以上の方が働いています※1 。人生100年時代を迎え、高齢者が職場で活躍する機会は今後も増え続けるでしょう。
劇作家ジェームズ・バリーは、「幸福の秘訣は、自分がやりたいことをするのではなく、自分がやるべきことを好きになることだ」と言いました。仕事の本質は、人の役に立つことです。どのような仕事でも必ず誰かの役に立っています。自分の置かれている状況を正しく理解し、必要とされていることを実感できれば、そこには喜びややりがいが生まれるのではないでしょうか。自分がどうありたいのかという視点を大切にしつつ、周囲から求められる役割を理解し楽しむことが、より充実したセカンドキャリアを過ごす秘訣なのでしょう。
責任のある立場へ上り詰めた人や、輝かしい過去がある選手ほど、当時の姿を追い求めてもがくものです。時にはそのプライドが邪魔をして、自分が変わらなければならないことに気がつかないかもしれません。
田中投手も「まだやれる」という強い気持ちでいるようですが、戦力として以外の部分を求められるようになった時にすんなりとそれを受け入れることができるでしょうか。首脳陣の意向を理解し、チームのために何をすべきかを理解して行動することが田中投手に課せられた大きな仕事となるかもしれません。
※1:令和5年版高齢社会白書
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s2s_01-3.pdf
2025年2月
ライター
代表取締役社長
瀬川 文宏
2002年 SO本部システム技術部長、2008年 取締役、2015年 専務執行役員、2017年3月より専務取締役、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
持ち前のガッツでチームを引っ張る元ラガーマン。
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